ニュージーランドの公立高校で

ニュージーランドに行ってきました。

日本の本州と九州を合わせた程度の国土に約440万の人口。マオリ系、ヨーロッパ系、ポリネシア系、アジア系など、多種多様な民族が暮らすまさに人種のるつぼ。一次産品輸出に依存する経済で、貿易依存度は高いが安定的な経済成長を遂げている。

教育では、2012 年OECD 生徒の学習到達度調査(PISA)によると数学的リテラシー 習熟度の平均得点500(日本536、OECD 平均494)。読解力習熟度の平均点は512(日本538、OECD 平均496)<上図※>。
大学は8校あり全て国立大学。数は少ないもののオークランド大学はほぼ安定的に100位以内、8校全てが500位以内の大学です。教育力が高い国と言えるでしょう。

このニュージーランドで「グローバル人材育成」はどのように位置付けられているのでしょう。西オークランドの公立高校Kelston Boys High School に “21st Century Learning”(21世紀型の学び)という文言が入った看板が掲げられていました。この学校がある地域は経済的には恵まれた地区ではありません。象徴的なのは歴代校長に国技であるラグビーの代表監督経験者Sir. Graham Henry が名を連ねていること。この学校の副校長で教務部長でもあるPeter Rutherford 先生に学校での取組みについて伺いました。

内容に入る前にニュージーランドで“21st Century Learning”がどの様に定義されているのか調べてみました。ニュージーランド教育省の委託調査報告書 “Supporting future-oriented learning and teaching A New Zealand perspective” © Ministry of Education, New Zealand 2012「未来型の学びと教育の支援ニュージーランドの視点」には次のように書かれています。「21世紀型の学び」や「未来の学び」は確立された処方でも方程式でもありません。それは新たに生まれつつある考え方、理念、知恵、理論や実践の集合体でその一部は既にいくつかの学校や授業で実践されていることであり、まだほんの一握りでしかないかほとんど見ることができないものです。(筆者訳)

そして、21世紀型の学びの特徴として6つの項目をあげています。
・Theme 1: Personalising learning(学びの個別化)
・Theme 2: New views of equity, diversity and inclusivity
(平等、多様、統合の新たな視点)
・Theme 3: A curriculum that uses knowledge to develop learning capacity
(学びを高める知識活用カリキュラム)
・Theme 4: “Changing the script”: Rethinking learners’ and teachers’ roles
(学習者と教師の役割再考)
・Theme 5: A culture of continuous learning for teachers and educational leaders
(教師と教育の指導的役割を担う人の継続学習文化)
・Theme 6: New kinds of partnerships and relationships: Schools no longer siloed from the community.
(新たなパートナーシップと関係構築:教育は地域から孤立的には成り立たない)

この様な背景理解をもとにRutherford 先生のコメントを紹介します。

日本の現状に似ていると感じたこと

・The National Certificate of Educational Achievement(NCEA)と言う試験により将来が決まるので、やはり試験対応型の教育が主流
・一部の教科で科目横断型の取り組みを始めようとしているところ
・授業法は伝統的な講義形式が主流。徐々に学習者主体型の授業を行う教師が増えている。
これはベテランと若い教師との世代交代が進んだことに起因する

印象に残ったこと

学習者主体型の授業の実践は難しいと考えられがちだが、二つのことに単純化して考えれば良いと思う。一つは、「教師がどこに立って授業をしているか」。もう一つは、「授業中誰が一番話しているのか」。

参考になった理論

・Reciprocal Teaching(相互教育)
学習者同士が教師の指導のもと小グループで決められた手順を通じて、学びの内容理解を深め発展することを効果的に実現する指導法。日本では一般的ではないようです。相互教育の訳以外に相互教授や相互説明法などとも呼ばれます。
・SOLO Taxonomy(SOLO 分類学)
オーストラリアの教育心理学者Biggs らが開発した独自の評価法で学習の評価のみならず、指導案や指導法にも活用できる。学習者を高いレベルの学びへの導きを実現する手法として高く評価されている。Bloom’s Taxonomy は教師にとっては有効な分類法だが学習者にとっては使いづらい側面があると言われている。

“Discursive”(散漫な)という言葉が会話の中で頻繁に出てきました。聞きなれない言葉でしたが、 “Using Thinking Skills in the Primary Classroom” Peter Kelly ではdiscursiveという単語が使われる時には並列で「協働型」や「課題解決型」が使われているので、答えを固定化するのではなく、柔軟に創造的に答えを導く姿勢や状態をさすのだろうと思います。

時代が変化しこれまでにない教育が求められているのは日本に限ったことではありません。グローバル人材を定義することは大切ですが、子どもたちがグローバルな時代に夢を持ち、夢を実現できる教育をどのようにしたら実現できるのかは定義以上に重要なことです。

(第5回おわり)

※OECD 生徒の学習到達度調査 Programme for International Student Assessment
~2012 年調査国際結果の要約~ 平成 25(2013)年 12 月 文部科学省 国立教育政策研究所

北 浩一郎Koichiro kita

(株)LbE Japan代表取締役
グローバル人材育成企業