学校行事×グローバルという視点での専門家コラム、学校での活用実践事例をご紹介!
※執筆者の所属や役職は2014年度執筆時のものです。
2008年、「世界を舞台に社会貢献できる真の国際人の育成」を目標に、本校の新たな教育の柱として国際学級・グローバルスタディーズクラスが設立された。
そのGSCも今年で7年目が経ち、今では、ハイレベルな英語教育はもとより、グローバルキャリアプログラムや海外進学指導、そして模擬国連のニューヨーク大会に4年連続で出場するなど、グローバル教育の先進校として注目を浴びるようになった。ここでは、その中でもGSCを代表する5つの取組をケーススタディとして紹介し、皆さんとグローバル教育を一緒に考えていきたい。
グローバル時代に対応した英語教育
GSCの英語教育のコンセプトは「Academic English」である。単なるオーラルコミュニケーションにとどまらず、また単なる受験指導で完結することもなく、国内外の大学で通用する英語力を目標にプログラム作りに尽力している。その中で今回は以下の2つの活動を紹介したい。
【プロジェクト】
学年 | プロジェクト名 |
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中1 | 世界で活躍する日本人 |
中2 | ジャパンリサーチ |
中3 | オーストラリアリサーチ |
英語プロジェクトでは、「学習の成果を形にしよう」、「英語をコミュニケーションの道具として使おう」という2つのコンセプトのもと、朝学習の時間や総合的な学習の時間と連携しながら、レポート、発表といった形で英語の作品を仕上げていく。どうやったら魅力的なレポートになるのか、どうやったら相手に分かりやすく、面白く伝えられるのか、そのようなコミュニケーション本来の視点に立ち、英語を使って、発信していくのである。特に、女子は「形にする」「作品を仕上げる」という作業に才を発し、その繊細さやセンスに驚かされることが多い。実際に、発表ではジェスチャーを織り交ぜて表情豊かに話し、イキイキと輝く生徒も多くいる。毎回ながら、プロジェクトを行うたびに、生徒のクリエイティビティに驚かされる。
中2・ジャパンリサーチ
日本をテーマに個人レポートを作成し、プレゼンテーションを行う。グローバル化がむ現代だからこそ、世界だけでなく、自分たちの国と文化について知り、「美しい日本」に誇りを持って、その魅力を世界に伝えていけるようになってほしいと願っている。
【セミナー】
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イングリッシュセミナー
1年間を通して「異文化コミュニケーションとマネジメント」というテーマのもと、リーディングを読み、ディスカッションをし、ミニプレゼンテーションをベースに授業を進め、さらに毎週2ページのライティング課題をこなす。
どれだけ積極的に参加しているか、どのように議論を展開していくか、そしてどのように課題解決に取り組んでいるかが最重要項目になる。加えて、高2後期から高3にかけて、卒業プロジェクトとして8ページのリサーチペーパーを仕上げる。
このセミナーは受講する生徒はもちろんであるが、私たち教員にとっても大変な授業である。
特に日本人教員においては、入門レベルとはいえ「異文化コミュニケーション」という科目を英語で教えるわけで、相当な準備量と力量が求められる。それでも、私にとって、このセミナーは大好きな授業の1つであり、なぜなら、生徒の参加によってレッスンが組み立てられるため、生徒と一緒に授業を作り上げている感が非常に強いからである。先日、1期生の卒業生からこんな電話があった。
「GSCでセミナーをやっていたので、大学で課される英語のレポートに全く苦労しない。大学に入ってGSCで身に付けたことが役に立っていると実感した。」というのである。なんとも嬉しい報告である。
グローバルキャリア
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グローバルキャリア
GSCでは、2014年度より、総合学習的な時間の中で、「グローバルキャリア」というプログラムをスタートさせた。「これからのグローバル時代でどのようなキャリアを設計し、どのように社会貢献するのか」ということを探求するカリキュラムである。
具体的なプログラムとしては、まず中3で、「異文化理解」をテーマに、身近な視点から文化とその多様性を考える。高1では、早稲田大学、明海大学と連携し、グローバルビジネスという視点から、「異文化コミュニケーションとマネジメント」という課題に取り組んでいく。後期は、生徒自らがグローバル事業展開を企画するというグループプロジェクトに取り組む。自分たちで将来性を分析しながら、展開する国や業種、商品を決め、またその土地の文化、宗教を調べる中で、どのようにしたら成功するのかを議論する。最後はその企画をプレゼンテーションして、投票を行うのだが、高校生らしい自由な発想を駆使して、笑いあり、驚きありの企画が提案され、実に面白い。高2では、前述のイングリッシュセミナーで、アカデミックに深めていき、最後は「グローバルキャリアと社会貢献」という観点から、リサーチペーパーを仕上げるのである。
アデレード短期留学
GSCでは、高校1年の7~9月の3か月間、オーストラリアのアデレードで3か月の短期留学を必修プログラムとして行っている。
単に語学の勉強に行くだけではなく、現地校の授業を受け、ホームステイを行う中で、「ここは楽しい、ここは難しい、ここは日本と異なる、ここは日本と同じだ」というように、様々なことを感じて帰ってきてほしいと願っている。
当然、トラブルは留学の本質でもあり、3か月の間には泣く生徒も当然のように出てくるが、それらを乗り越え、前向きに取り組むことで、身も心も一回りどころか二回りも大きくなって帰ってきてくれる。ただでさえはっきりをものを言うGSC生が「積極的になった」と言うようになるのだから、その効果は絶大である。
実際に、アデレードから帰ってきて、英語の授業でまとめを行うと、生徒の発言が止まらず、毎年変化を肌で感じる。
さらに2014年からは、グローバルキャリアの一環として、現地で2つのプログラムを取り入れた。
1つ目はInternational College of Hotel Management(ICHM)という、ホテルマネージメントの専門学校での1日研修である。このICHMは、スイスホテル協会に認められた外国唯一の専門学校であり、ここで生徒は「ホスピタリティーと異文化マネージメント」をテーマにワークショップに取り組んだ。
2つ目は、アデレード大学での1日研修であり、授業体験や学生との交流を通して、海外進学を1つの可能性として考えるきっかけを提供した。このように、海外研修に「グローバルキャリア研修」の要素を組み入れ、プログラムの充実を図っている。
学年 | プロジェクト名 |
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日程 | 高1 7月~9月の3カ月間 |
費用 | 約100万 |
内容 |
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参加した生徒の声
その結果、たくさんの友達とたくさんの思いでを日本に持ち帰ることができました。後悔は1つもありません。本当に素晴らしい濃い3ヶ月を過ごすことができました。この留学は多くのことを私に教えてくれたので、これからに生かしていきたいです。
模擬国連
模擬国連国際大会
2011年にGSCの1期生が模擬国連に応募し、いきなり全国大会に出場したかと思えば、優秀賞を受賞し、そのままニューヨークの国際大会に出場した。その後、2014年まで実に4年連続で国際大会の切符を勝ち取り、2014年にはなんと最優秀賞に輝いた。
ニューヨークに行った先輩たちの姿に刺激を受け、「私たちもニューヨークに行きたい」という一心で、生徒は自らに火をつけ、ハードな課題に取り組み、互いに競い合い、切磋琢磨している。そのような姿を見ていると、いかに高校生はバイタリティとクリエイティビティを秘めているのかと感じさせられる。
全国大会 | 国際大会 | |
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第5回 | エネルギー安全保障(オーストラリア) | 放射能の影響(ジンバブエ) |
第6回 | 核軍縮(オーストラリア) | 違法貿易(クロアチア) |
第7回 | 児童就労(ソマリア) | 北極の環境保全(クウェート) |
第8回 | 食料安全保障(サウジアラビア) | 森林乱伐問題(シリア) |
過去4年間の大会のテーマと実践女子チームの担当国
海外進学
海外進学指導について、これからの時代、私たち学校がその指導を主体的に行い、進路をバックアップすることが求められているが、その中で重要なのは、①積極的に生徒のニーズを掘り起こし、②学内で指導できるシステム作りと人材の育成をすることである。本校の取組を以下の表にまとめたが、本格的に取り組みを開始した2013年以降、学校全体で2ケタの海外大学実績を継続している。
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海外進学アドバイザー]
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海外進学カウンセリング
グローバル教育部内に海外進学アドバイザーを配置し、個別カウンセリングから出願サポートまで行っている。
②海外進学ガイダンス
毎年11月に高1、高2の生徒、保護者を対象に開催。海外進学に対するニーズを学校として積極的に掘り起こす。毎年50~70名の参加がある。
③TOEFL授業、講座の充実
・GSCでは、高2、高3でTOEFL授業が選択できる。さらに、海外進学講座として放課後に週2回指導を行う。夏期には合計76時間の集中講座を開講している。
④海外進学希望者の国内模擬試験免除
海外進学を希望する生徒には、高2から国内の模擬試験を免除し、同時間帯にTOEFLの演習模試を行うなど、進路選択にあった柔軟な対応を行う。
⑤海外指定校
2013年にはカナダに初の指定校推薦による入学者を輩出。さらに、現在もオーストラリアの大学と指定校枠を検討中。
⑥様々なイベント
海外大学の訪問団の受け入れ、オーストラリア総領事館による海外進学フェア、など、生徒の意識を高めるイベントを年に数回程度実施。
大学名 | 国名 | 合格数 |
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マウントアリソン大学 | カナダ | 1 |
オルブライトカレッジ | アメリカ | 1 |
クラーク大学 | アメリカ | 1 |
コーネルカレッジ | アメリカ | 1 |
ハノーバーカレッジ | アメリカ | 1 |
イサカカレッジ | アメリカ | 1 |
レイクランドカレッジ・ジャパンキャンパス | アメリカ/日本 | 1 |
ニューヨーク州立大学ジェネセオ校 | アメリカ | 1 |
ワートバーグカレッジ | アメリカ | 1 |
ワシントン&ジェファーソンカレッジ | アメリカ | 1 |
逢甲大学 | 台湾 | 1 |
国立台湾師範大学 | 台湾 | 1 |
国立中興大学 | 台湾 | 1 |
2013年度卒業生 海外大学合格実績(実人数5名、既卒生1名含む)
グローバル教育 今後の課題
グローバルと言う言葉を毎日のように耳にするが、中高の教育でも「グローバル人材の育成」は重要なテーマである。特に2013年は、政府の「日本再興戦略~Japan is Back」に端を発して、財政会、教育界の両方においてもグローバル化の波が加速した1年であった。私自身、グローバル教育部長という職を務める中で、次々と訪れる大きな変化の波を感じ、グローバル教育の必要性をますます感じる年であった。振り返れば、2013年は「グローバル教育改革0年度」となるのではないかと、個人的に感じているほどである。
スーパーグローバルハイスクール、IB日本語プログラムなどはあくまでもその氷山の一角であり、これから否応なしにグローバル教育が中高で問われる時代になる。グローバル教育がまさに今後の学校教育を左右するカギとなることは明白であり、社会と時代の要請に沿って改革を行い、多様化する責務に対応して新たな教育を展開していく必要があると感じている。
そのための最大の課題は、教員の意識改革である。これまで「学校の先生が時代の波についていけていない」ということを耳が痛いほど聞いてきた。確かに、変化を強いられることは嫌なことで面倒くさいかもしれないが、時代が変化していく以上、抵抗しようが何しようが、遅かれ早かれ必要なことである。
私は、グローバル教育を「40年のギャップを埋める教育」と呼んでいる。私たちが受けてきた教育は(年齢によって異なるだろうが)20~30年前のものであり、その価値観では今の時代には通用しない。それどころか、これからの生徒は20年後の世界に飛び込み、活躍をしていかなくてはならず、私たちはその時代に必要な人材像を意識して教育に取り組まなくてはならない。これからの生徒が向き合う時代はどのようなものか、そしてその時代で活躍するにはどのようなスキルが必要なのか、私たち教員が自らの価値観を変えて、臨まなくてはならない。
特に英語科の教員の変容は必須である。当然、英語科の教員の負担は相当なものである。しかし、この時代に英語科教員としての道を選んだからには、「英語」と名のつくプロフェッショナルとしてその責務を果たしていかなくてはいけない。今後のグローバル教育に英語科のリーダーシップは不可欠である。
一方で、学校は英語科依存を脱するために、学校全体の課題としてグローバル教育に取り組み、それと相互作用する形で英語教育改革を進めていくことが必須だろう。
学校全体で私たちが育てるべき人材像を明確にし、新たな教育のグランドデザインを構築し、それに向けて教育改革をしていくことが重要な課題となってくるのだろう。
グローバルな学校になるために:短期的および長期的目標
今の最低限の目標 | 最終的な目標 | |
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意識 |
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GED部 |
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留学システム |
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海外進学 |
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英語教育 |
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グローバルキャリア |
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リスク管理 |
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