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イスラム=危険という危険な思い込み~平和なイスラム世界から~(ブルネイ)
日本の報道の中には「イスラム教=危険」という取り扱いをしているものもあり,誤解する人も多いのではないだろうか。
僕はたくさんのイスラム世界を訪れてきたけど,その認識・思い込みは間違いだと声を大にして言いたい。もちろん極端な危険思想を持っている人たちもいるのであろうが,大半のイスラム教徒は大変穏やかで,特に外国人にはとても優しいのである。
東南アジア,マレーシアに囲まれるように存在する小さな国,ブルネイ。2017年夏,僕はこのブルネイを訪れた。
ブルネイはとっても豊かな国だと言われている。その理由は,豊富な天然資源にある。石油や天然ガスを世界中に輸出しており,東南アジアではシンガポールに次ぐ高い経済水準と充実した社会福祉を実現している。税金はなく,教育費や医療費も無料。公共料金も安い。そして自家用車は一家に2台以上とも言われている。
僕はマレーシアから海路でブルネイに入国した。マレーシアのコタキナバルから高速フェリーに乗り,ラブアン島でフェリーを乗り換えてブルネイへ。暖かい国によくあることなのだが,そのフェリーがとにかく寒い!長袖を数枚重ね着しなければ耐えられないほど,それはそれは寒かった。
ラブアン島からのフェリーは,ブルネイの首都バンダルスリブガワンの中心部から,バスで1時間程度のところにある。ブルネイはとっても平和で穏やかな国。なんてことはない,フェリーターミナルでのんびりバスを待って,僕はバンダルスリブガワンの中心部へと向かった。
ブルネイの正式名称は「ブルネイ・ダルサラーム」という。これは「永遠に平和な国」という意味で,その名の通り,ブルネイ国内はいたって平和である。
バンダルスリブガワンの町中を歩けばすぐに分かるが,危険な雰囲気はまったくない。国民の多くが自動車を持っており,歩いている人は少ないので,そういう意味では少し寂しさを感じる面はあるが,身の危険を感じるような空気はまったくと言っていいほどないのである。
ブルネイの国教はイスラム教であり,国民の大半がイスラム教徒である。日本人の多くが,国名や地域に関係なく,イスラム教に対してネガティブなイメージを持っているのではないだろうか。いや,正確に言うと持たされてしまっていると言った方が正しいのかもしれない。中東を中心としたイスラムの過激な武装勢力の報道ばかりがテレビやネットのニュースに流されているのが現状である。そのような情報にだけ触れていると,当然イスラム教に対してプラスのイメージは持てないであろう。
僕は街中を歩きながら,いろいろと考えていた。バングラデシュである夜行列車に乗ったとき,隣に座っていた女性が「私たちはテロリストじゃないからね」と,僕に話してくれたことを思い出した。そう,一部の過激派のために,ほとんどの善良なイスラム教徒すべてが迷惑を被っている。そのことを,僕たちはしっかりと理解する必要がある。
豊かな国ブルネイには,とっても不思議な集落がある。「カンポン・アイール」と呼ばれているそれは,いわゆる水上集落である。この水上集落は600年以上の歴史を持ち,現在でも3万人以上の人々が住んでいる。
パッと見はとても素朴で,お金がある国の様子には全く見えない。ブルネイは国家事業として,このカンポン・アイールがあるブルネイ川を30年かけて埋め立てダウンタウンを広げる計画がある。さらに,近年は水上集落で大規模な火災が発生しているため,政府は住民に陸地への移住を推奨している。
すでに政府は移住者用の公営団地を建設しており,その団地に格安の賃料で10年間住めば,その物件は入居者のものになるという好条件が提示されている。それなのに,移住を拒む人が多いという。
パッと見の豊かさが問題なのではない。カンポン・アイールは,ブルネイの人々にとって歴史ある安住の地であり,簡単に手放せる場所ではないのだという。
ブルネイを歩いていると,それほどお金持ちの国とは思えない雰囲気がある。バンダルスリブガワンの町中にある市場も極めて庶民的である。モスクこそ豪華けんらんで,「これの建設にどれくらいのお金が費やされたのだろう?」という疑問が自然に生じてくるが,町中は意外にも質素である。「ブルネイ=天然資源でお金持ち」というイメージを抱いていた僕は,ドバイやカタールのような町並みを想像していた。しかし実際はそのような景観とは大きく異なり,人々の生活の様子も質素で,豪華な雰囲気はほとんどなかった。
お金持ち,しかし質素であり,それでいて大変に穏やかな国,ブルネイ。観光という観点から言えば,少し退屈な国かもしれない。しかし,この穏やかなイスラムの国は,僕たちに大切な視点を投げかけてくれていると思う。
人間とは愚かで弱いもので,結局は自分の思い込みや先入観,わずかな知識から生まれてくるイメージに縛られてしまうものである。
そもそも東南アジアにはたくさんのイスラム教国があることすら知らない日本人も多いであろう。日本人はイスラムと聞くと,すぐに中東を思い浮かべてしまうが,なんてことはない,すぐ近くにアジアの国々にもたくさんのイスラム教国がある。
穏やかなイスラムの国,ブルネイ。この国を訪れると,報道のようなイスラムの世界観がいかに一面的なものであるかがよく分かるであろう。自分の先入観を壊し,新たな価値観を創造するためにも,ぜひ一度,このブルネイを訪れてみてはどうだろうか。
ブルネイ・ダルサラーム国
首都 | バンダル・スリ・ブガワン |
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面積 | 5,765平方キロメートル(三重県とほぼ同じだよ) |
人口 | 41.7万人(2015年)(外国人在留者を含む。出典:ブルネイ首相府 |
言語 | 憲法で公用語はマレー語と定められているよ。
英語も広く通用し, 華人の間では中国語もある程度用いられているんだ。 |
宗教 | イスラム教(国教)(78.8%),仏教(8.7%),キリスト教(7.8%),その他(4.7%) |
- ▼マングローブ・リバーサファリ
- 「そもそもブルネイって何があるの?」と思う人が多いだろうけど,実は町中からちょっと川を下れば,マングローブがビッシリと生えているジャングルがあるんだ。ここに住むテングザルを見に行くツアーが人気で,ツアー会社を通さなくても,ブルネイ川を行き来するボートタクシーと直接交渉して見に行くこともできるんだよ!
- ▼ブルネイのお金
- ブルネイの通貨はブルネイ・ドルだけれど,条約によりシンガポール・ドルと等価と決められているんだ。国内ではシンガポール・ドルも使用できるんだよ。ブルネイの石油産業とシンガポールの経済力を互いに協力させることによって,共に経済成長をしていこうと約束をしているんだね。