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国連本部訪問レポート~日本人として国連をどう見るべきか~
国際連合,通称「国連」。元社会科の教員として,国連には絶対に訪れたいと強く思っていた僕。念願かなって,ついに足を踏み入れることができたのだ。
国連の内部を自由に見学することはできないので,必ずガイドツアーに参加しなければならない。日本語のツアーもあるにはあるのだが,回数はとても少ない。ということで,僕は英語のガイドツアーに参加した。
12時からのツアーだったのだが,参加者は全部で20人くらいだった。ドイツやフィンランド,香港,ジンバブエなど,多種多様な国からの参加者がおり,実に刺激的な時間だった。
ツアーでは,国連が主にどんな活動をしているのかについて説明をしてくれ,合わせて実際の議場なども見学することができる。「これが国連か~,へ~!」で終わらせることもできるが,考えさせられる点も多々あった。今回のツアーの中で「日本人として」僕が感じた点を,いくつかまとめたいと思う。
① 国連への拠出金第2位の国が知られていない。
ガイドのお兄さんが全員にこんな質問をした。「国連に最もお金を出している上位3つの国をご存じですか?」と。
1位のアメリカはすぐ出てきた。しかし,2位が出てこない。ツアー参加者の多くはヨーロピアンだった。イギリス,フランス,ロシア,ドイツ……いろいろな国名を言うのだが,なかなか正解が出てこない。
僕は答えは日本であると知っていた。黙って見ていたのだが当たらないので,手を上げて「ジャパン」と答えた。
「なるほど,そんなものなのか」と思った。日本という国が世界で2番目にお金を出しているということはあまり知られていないようだった。別にそれを変な形で知らせる必要なもちろんないと思うが,この事実は世界の方々にもっと知ってほしいものだと感じた。
② 日本とドイツの皮肉な立ち位置。
ガイドのお兄さんが全員にこんな質問をした。「国連の公用語は6つあるのですが,何でしょうか?」と。
面白いことに,今度はここで間違った答えとしてドイツ語と日本語がすぐに挙がってきたのだ。これは大変に興味深かった。最初の質問で拠出金についての話があったので,拠出金2位の日本と3位のドイツが答えとして出てきたのであろう。しかし,残念ながらこの2つの国の言語は公用語ではない。
日本とドイツは共に皮肉な立場なのである。第二次世界大戦中は連合国(アメリカ,イギリス,フランスなど)に対立した「枢軸国」として,日本やドイツを「悪い国」として扱われ続けてきた。でも今や,この2か国は世界有数の経済大国であり,国連への拠出金は2位と3位。立派な貢献を果たしている。
さらに面白いのは,日本とドイツは,イギリスCNNの世論調査「世界に最も良い影響を与えている国ランキング」の上位にいつも位置している。国連では,まだ「敵国条項」なるものから外されていないにも関わらず,である。
大戦中は共に国土を焦土化されたのに,瞬く間に這い上がってきた日本とドイツ。それなのに,この2か国はいまだに「敗戦国」なのである。そもそも国連の英語名「United Nations」は,直訳すると「連合国」の意である。日本では「国際連合」と訳しているが,そもそもの意味合いは違うということを,僕たち日本人は知っておくべきだろう。
③ 日本にはやるべきことがある!
国連の中には,長崎へ投下した原爆によって背面が溶けてしまった像が置いてある。核の恐ろしさを伝えるため,国連に展示されているのである。
世界で唯一,核兵器が使われた国,日本。その被害の象徴が,核兵器を唯一使用した国,アメリカに飾られているのだから,なんとも皮肉なものである。
しかし,今の日本は平和利用をしていたはずの原発で大問題を抱えてしまっている。核の兵器利用によって被害を受け,さらに核の平和利用によっても被害を受けてしまっている国,日本。そんな日本だからこそ,世界に向けてやるべきことがたくさんあるはずだ。
④ 言うべきことはハッキリ言おう,日本!
国連は,出入りする職員もあらゆる国から集まっているエリートだし,200近い国が加盟している組織である。賛否両論,さまざまな意見があるとはいえ,影響力の大きい組織なのだ。だから,日本も遠慮することなく言うべきことはハッキリ言わなくてはいけないだろう。そういったところは日本人は苦手なのかもしれないが,国際社会ではそうも言っていられない。
この国連の中で日本はどうあるべきか,深く考えさせられた。
最近で言えば,北朝鮮の核開発やミサイルの発射が大変な話題になっており,それと同時に国連の制裁決議も幾度となくニュースになっている。しかし,そんな国連の対応もむなしく,北朝鮮は更なる挑発行動に打って出ている。
僕はここで国連の否定も称賛もするわけではないけれど,どうも日本人は「国連万能思考」的なものが強すぎる気がする。国連は確かに世界の行方を左右するほどの大きな組織であるし,協力すべきものではあると思うが,もともとは第二次世界大戦の戦勝国のみで作られた組織であり,戦勝国が主導できるように作られている組織であることも日本人として知っておくべきであろう。
もちろん,いつまでも過去の大戦の話を引きずっていても前には進めないし,進むべきは平和な世界に向けてである。しかし,そうは言っても過去があっての現在であり,そして未来がある。
日本という国の一員として,この国際連合という組織をどう見るべきなのか。特に若い世代にこそ,イメージだけでなく客観的な目で考えてほしいと思う。
アメリカ合衆国
首都 | ワシントンD.C |
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面積 | 962.8万平方キロメートル(日本の約25倍もあるよ!) |
人口 | 3億875万人(2010年4月 米国国勢局) |
言語 | 主として英語(だけど,法律上に規定はないんだ) |
宗教 | 主にキリスト教(信教の自由を憲法で保障しているよ) |
- ▼国際連合とは?
- 第二次世界大戦を防げなかった国際連盟の反省を踏まえ,1945年10月に51ヵ国の加盟国で設立されたんだ。日本は1956年12月18日に加盟し,80番目の加盟国となったんだよ。近年では2011年に南スーダンが加盟し,現在の加盟国数は193ヵ国となったんだ。
- ▼安全保障理事会とは?
- 安全保障理事会(通称,安保理)は,5か国の常任理事国(中国,フランス,ロシア,英国,米国)と各地域に配分され,選挙により選出される10か国の非常任理事国によって構成されるんだ。具体的な活動としては,特に冷戦の終結以降,1)国連平和維持活動(PKO)の設立,2)多国籍軍の承認,3)テロ対策,兵器の不拡散に関する措置の促進,4)制裁措置の決定等,多岐に渡っているよ。
安保理を語る上で忘れてはならないのが,拒否権の存在。安保理の決定において,常任理事国のうちの1か国でも反対があると,その事項を決議することはできないという,強力な権限があるんだ。 - ▼敵国条項とは?
- 国連憲章第53条,第77条1項b,第107条に規定されている。内容を簡単に言えば,「第二次世界大戦中に連合国の敵国であった国が,戦争の結果確定した事項に反して,侵略政策を再現する行動等を起こした場合,国際連合加盟国や地域安全保障機構は,安保理の許可がなくとも当該国に対して軍事制裁を科すことができる」といったものなんだ。
つまり,国連憲章第51条に定められた「あらゆる紛争を国連に預ける」という規定に縛られず,敵国条項に該当する国が問題を起こしたときは「自由に軍事的制裁を課すことができる」という考え方になるんだ。