中東
エジプト
「ダハブのクソッタレ」~華やかなリゾート地のその裏で~(エジプト)
「え?ダハブ・・・・には行かないんですか?」
ある場所で出会った若い日本人の旅人に強い口調でこう言われた。
「いや?ダハブに戻りたいわぁ。」
ヨルダンで仲良くなった日本人が,よくこのセリフを口にしていた。
「ダハブ…。全然意識をしていなかった場所だけど,そんなに良いところなのか?」僕は今回の旅ではスキューバダイビングをするつもりはないし,きれいな海はもちろん大好きだけど,その「ダハブ」という場所にそんなに情熱はわいてこなかった。でも,何だか会う人会う人みんなが「ダハブダハブ」言っているのを聞くと,やっぱりこの目で確かめたくなる。
ということで,ヨルダンのアカバからフェリーで出港した僕は,エジプトのヌエバを経由して,噂のダハブに向かった。
きれいではあった。目を見張るような紅海が眼前に広がる,美しい町だった。でも,僕の想像していた「ダハブ」とは違っていた。
僕はもっと,ダハブって大きな町で,いかにもリゾート地みたいな場所を想像していたのだ。しかし実際はとてもこぢんまりとした町で,背の高いホテルなどもない。美しい紅海に面したのどかなリゾート地であった。とても心地よい地ではあった。
でも僕は,そんな「表のダハブ」ではなく,「裏のダハブ」に心を奪われた。
美しいビーチと外国人向けのホテルやレストランが建ち並ぶ,ダハブの海岸線。そこから10分も内陸側に歩くと,「裏のダハブ」・・・・が見えてくる。
そこには…現地の人々が暮らす貧しい町があった。照り付ける太陽,薄茶色の大地。はるか彼方には,シナイ半島の荒涼とした山々が広がっている。道端にはゴミが散乱し,町中なのにヤギの群れが歩いている。
ちょうど学校が終わったところなのだろうか,カバンを持ったまま外で遊んでいる子どもたち。カメラを向けると,「ヘイ,ノーフォト!」と強く叫ばれた。
なんということか。すぐ先の海岸線では,多くの欧米人や日本人がバカンスを楽しんでいる。ここはスキューバダイビングのメッカ,ライセンスを取得するための講習やファンダイブを楽しんでいる観光客も大勢いる。泳ぎ着かれたらビーチのマットに寝そべって,思い思いの休暇を楽しんでいる。
そんな「先進国の人間」たちのくつろぎのすぐ先には,現地の人々の貧しい暮らしがあった。彼らは,どんな気持ちで僕たちを見ているのだろうか。
ほんの数百メートルの距離だ。建ち並ぶきれいなレストランと,今にも崩れ落ちそうな現地の人々の家屋が混在する町。
なんという矛盾か。
なんという僕たちのおこがましさか。
なんという,クソッタレた世の中なのか。
何がダハブだ!何が「え?ダハブには行かないんですか?」だ!何が「またダハブに戻りたいわ」だ!
貧困の町を歩きながら,正直なところ僕はそう感じていた。それほどまでに,僕たち観光客が楽しんでいる場所と,現地の人々の貧しい暮らしの場所はすぐそばにあった。
何人もの日本人の若者がいた。はたして何人の日本人が,このことを現実に意識を向けていたのであろうか。
僕は数人の子どもたちと会話をした。
でも,彼らが最初に僕に言ってきた言葉。それは…「ギブミー1ポンド」そして「フードプリーズ」だった。「お金をくれ」そして「食べ物をくれ」という言葉。
僕は心が痛くなった。彼らから見れば「ビーチに遊びに来た金持ち日本人が,なんで俺たちの住み処に来てやがるんだ?」という風にしか映らないであろう。それは当然だ。そう言われれば,僕は甘んじてそれを受け入れる。
僕は日本で生まれ育った。決してお金持ちじゃない。お金持ちの家庭でもなかった。だがそれでも,こうしてエジプトにまで旅に来ることはできる。でも彼らに,他の国に行くという選択肢などあるはずがない。子どもたちのほとんどが,おそらくこの地を出ることなく一生を終えるのかもしれない。
彼らはたまたまこの地に生まれただけである。いったい,僕たちと何が違うというのだ。いったい,彼らの何が悪いというのだ。
僕は彼らの町を後にした。言葉にならない感情を心にとどめながら,言わずと知れた「ダハブのリゾート地」に戻った。
欧米人がビーチでバカンスを過ごしている。日本人がスキューバダイビングを楽しんでいる。それを否定するわけではない。それ止めろなんて言っているわけでもない。誰にだって人生を楽しむ権利がある。リゾート地でバカンスを楽しむこと自体に何の罪もない。
だがしかし,このままでいいのだろうか…。
ここで楽しむこと自体にきっと罪はない。でも,それでいいのだろうか…。
ダハブはたくさんのことを僕に教えてくれた。でもそれは,「表のダハブ」ではない。「裏のダハブ」の教えだった。
彼らが住む町の道端で,一緒に座って屋台の「コシャリ」を食べた女の子の顔が,僕には忘れられない・。暮らしは貧しいはずである,しかしそれなのに,僕に「私のも食べる?」とでも言わんばかりに,自分のコシャリを僕に差し出してくれた。
暮らしが貧しいからと言って,人間の心は何も変わらない。世界中で同じような感覚を覚えてきたが,このダハブにも変わらない「愛」があった。
エジプト・アラブ共和国
首都 | カイロ |
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面積 | 約100万平方キロメートル(日本の約2.7倍だよ) |
人口 | 9,304万人(2017年エジプト中央動員統計局) |
言語 | アラビア語(都市部では英語も通用するよ) |
宗教 | イスラム教,キリスト教(コプト派) |
- ▼ダハブ
- シナイ半島の東部に位置する村のことで,リゾート地およびダイビングスポットとして名高く,毎年多くの観光客が訪れるんだ。以前はベドウィン(放牧を営みながら移動を繰り返す人々)の住む小さな漁村に過ぎなかったんだけど,かつてシナイ半島がイスラエルに占領されたのを機に,観光開発がすすめられた。1982年にイスラエル・エジプト平和条約によってシナイ半島がエジプトに返還され平和が訪れると,外国資本が流入し,開発がさらに進んでいるよ。
- ▼コシャリ
- マカロニやスパゲッティなどのパスタと米,そしてヒヨコ豆やレンズ豆をミックスし,揚げた玉ねぎとトマトソースをかけた料理で,エジプトの「国民食」とまで言われているんだ。カルと呼ばれる酢と,シャッタと呼ばれる辛味ソースをかけて食べるよ。エジプトならどこででも食べることができるので,ぜひお試しあれ!