中米
グアテマラ
「チョコラテ」絶景のセムクチャンペイと村の少女(グアテマラ)
日本人にとってはなじみのない国が多い中米において,グアテマラは比較的多くの日本人が耳にしたことのある国ではないだろうか。
グアテマラは,個人的にはかなり好きな国である。なんといってもたくさんの先住民族の村がある! 前章の記事でも述べたように,僕は先住民族が大好きなのだ。それに加えて,美しい大自然や古代遺跡も多くあり,実はたくさんの観光名所が随所に存在する国なのである。
そしてほとんど知られていないが,このグアテマラに長期滞在する日本人のバックパッカーがたくさんいる。その理由は,なんとスペイン語の学習のためなのである。たくさんの日本人バックパッカーがその後の中南米への旅に備えて,グアテマラで長期滞在をしながらスペイン語を学んでいるのだ。理由は分からないが,そのような理由で滞在している日本人には,女性の方が圧倒的に多いように感じられた。
中南米を旅するにはスペイン語は必要だ。英語はほとんど通じない地域も多い。スペイン語がペラペラに話せたら,中南米の旅は間違いなくより深いものになるだろう。と言っても,僕自身は片言のスペイン語と翻訳ガイドブックを片手に中南米を周っていたのだが(笑)。
僕は南北アメリカ大陸を南から北へ縦断していたので,エルサルバドルという国からグアテマラに入国した。今回の舞台は,グアテマラのほぼ中央に位置する「階段状の神秘の湖」が存在することで知られている,セムクチャンペイという場所である。
セムクチャンペイは本当に美しい! うっそうとした原始林を切り開くように,そこだけに存在する美しき階段状の湖。上から眺めると,本当にそこだけぽっかりと湖になっているのだ。その美しさには言葉を失う。
さらにこの湖は泳ぐことができるのだ! 僕はバシャバシャと一人ではしゃぎまくった。湖の中でじっとしていると,足をチクチクと何かが突っつき始める。それはなんと,角質を食べてくれることで日本でも有名な,いわゆるドクターフィッシュである。見てよし,入ってよし,さらに角質のお掃除までしてもらえるこのセムクチャンペイなのだが,その麓の村では,現地に住む人々の厳しい現実があった。
グアテマラは貧富の差が激しく,地方の村に行くとかなりの貧しさが感じられる。このセムクチャンペイも例外ではない。観光客が泊まるホテルだけは豪華にこしらえてあるが,一歩そこを離れれば,密林に囲まれた貧しい村々が点在する地域である。
電気も24時間使えない。ホテルでさえ,夜の数時間しか電気は来ないのだ。僕はそんなホテルの外れにある,ドミトリー(共同の相部屋)の一番安いベッドを借りて宿泊していた。
ある朝,お金がない僕は村の商店で買ったバナナをかじって朝食をとっていた。そこに,一人のある少女がやってきた。
身なりは正直かなり汚い。髪の毛もボサボサで肌も浅黒い。おそらく数日はお風呂にはいっていないのであろう。
彼女は僕に一言だけこう言った。「チョコラテ・・・」
発音の違いであるが,チョコレートのことである。何てことはない,チョコレートを売りに来ただけである。
前から言っているように,僕は物乞いには基本的に何もあげないし,ものを売りに来た子どもからは何も買わない。このときももちろん同じ気持ちだった。かわいそうだとは思いながらも,僕はその女の子を無視し続けていた。
ほどなくして彼女は僕のもとを去っていった。こんなことはいつものこと。これまでにも何百回と経験してきたし,旅を続けていればこれからも何百回も経験していくのだろう。
しかし,どういうわけだかこのときはその少女のことが心に引っかかっていた。
何てことはない,いつものことだ。この少女と同じような境遇の子どもたちは,それこそ星の数ほど存在する。悲しい事実ではあるが,それが世界の現実である。
そんなことは分かっていたのに,同じようなことを何度も何度もしてきたのに,なぜかこのときだけは,ものすごい罪悪感が僕の心を襲ってきた。
理由は分からない。でもなぜか,このときだけは・・・。
少女の言葉はか細く,2,3度「チョコラテ・・・」とつぶやいただけで,彼女は僕から離れていった。
僕から離れた後,彼女は近くにいた欧米人の旅人にも同じように声をかけていた。定かではないが,どの欧米人もみんな「チョコラテ」を買っていないようだった。そして彼女はスーッとその場から立ち去って行った。
彼女は,どこの村から来ていたのだろう。
朝の7時くらいだった。彼女は学校には行っているのだろうか。
ひとかけらの「チョコラテ」を売って,彼女のもとにはいくらのお金がはいるのだろう。
家族はいるのだろうか。兄弟姉妹がたくさんいるのだろうか。
これは本当に自分でも謎なのだが,同じような状況に何度も遭遇しているのに,ひどく心に刺さるときと,さらっと流れてしまうときがある。その差が何によって生まれるのか,これは本当に自分でも分からない。
ただ,やはりこれだけは言える。この少女は特別な存在ではないということ。
そして,いわゆる開発途上国の美しい観光地に行くと,その裏には必ずこの少女のようなもの売りの子どもたちと貧しい村々が存在する。
この記事を読んでくださっている方が先生であったら,授業の題材にしていただけたら大変有り難いし,子どもたちであったら今置かれている自分の環境を見つめ直し,感謝の念を抱いてほしい。
グアテマラは僕の旅の中で,かなり多くのさまざまな出来事や出会いがあった国。いろいろな思い出のある国であるが,僕はあの少女のか細い声が今でも頭から離れない。
「チョコラテ・・・」
グアテマラ共和国
首都 | グアテマラシティ |
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面積 | 108,889平方キロメートル(北海道と四国を合わせた広さよりやや大きいくらい) |
人口 | 約1,634万人(2015年,世界銀行) |
言語 | 公用語はスペイン語。その他に22のマヤ系言語他あるんだ。 |
宗教 | カトリック,プロテスタント等(信教の自由を憲法上保障されているよ) |